閉鎖病棟にいた夫

結婚生活

廊下の突きあたりに天井まで届く白く塗った鉄の扉が行く手を塞がります。
そこに用事がある場合は、職員さんにお願いして、鉄扉を開けてもらってから、扉の奥にある閉鎖病棟前の廊下に出ます。

閉鎖病棟の個室はベッドと床に空いた穴(排泄用)しかない部屋で、窓は男性でも手の届かない高さに小さなものがありました。
夫は閉鎖病棟に入ってすぐの3日間ほどは落ち着かず、昼間だけでもうちに25回電話をしてきました。

ナースステーションに公衆電話が置いてあり、電話は比較的自由にかけられたようです。
25回と言うのも尋常な回数ではないんですけど、最初の数日は「なんでおれをこんなところに入れた」と私を罵倒する内容でしたが、私が病院に抗議したら電話の回数は半分くらいになり、あれを持ってきて欲しい、これを持ってきて欲しいと言ったリクエストに内容が変わってきたので、私も病院に行くようになました。

私の両親は飛行機移動でも4時間はかかる遠方に住んでいたので、結婚も事後報告だったのと、親の資質として今回の問題を相談しても明確な事後策は出てきそうもなかったし、夫の家族が私を見る目は最初から不審人物扱いで、夫がこの状態になっても頼れるような関係ではなかったので、この時の私はひとりで問題の矢面に立っていました。

新婚 閉鎖病棟

少しずつ夫との会話が続くようになり、病院を訪ねると夫は閉鎖病棟から開放病棟に移っていました。
6人部屋のベッドには夫が座っているだけで、他の患者さんたちはいらっしゃいません。
「この部屋、ひとりだけ?」と聞くと、「他の患者さんはデイサービスに行ってるよ」と夫は病室の窓の外を指差しました。

その指の先には畑仕事をしている様子の人たちが見えました。
「ぼくはね、仕事柄患者に余計なことを吹き込むおそれがあるということで、作業には参加できないんだ」と夫が言いました。
夫の口調は穏やかで、躁状態になる前、入籍する前の落ち着いた口調でした。



「彼は治ったのね」と感激するほど私はお人よしでもなく、それよりもなぜこうなったかを考えました。
私と結婚したことで幸せな家庭を持ちたいと夫は考えたのかも知れません。
そこにプレッシャーを感じて躁状態に移行したんじゃないかな。
と私は仮説を立ててみましたが、夫には聞きませんでした。

精神病院の入院は10日間くらいで、そのあとは4日ほど休んで、事情を知っている病院のはからいでしれっと夫は仕事に戻りました。

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